音楽は視覚を占有しない稀な娯楽で、そういう意味では競合するもののない独占的な地位を占めている。いくらゲームや映画が魅力的なコンテンツを作ったって、それが車の運転中や勉強中や掃除中に消費されるようになるとは思えない。

裏を返せば視覚の行き場がないことが「ちゃんと音楽を聴く」という行為を難しくしている。そしてそのことが音楽に対する理解度や満足度を下げてしまっている。新しい曲を耳にしてもちゃんと聴かないから良さが分からず、良さが分からないからその曲がかかっていても意識を割く割合を減らし、ますますちゃんと聴かなくなるスパイラル。いったんちゃんと聴けば気に入ってより深く聴くようになる逆のスパイラルも期待できるのだが。ちゃんと音楽を聴こうと思ってもついつい手元の何かを読んでしまったりして、しかもそっちに集中してしまったりしていつのまにか音楽が意識の外に締め出されてしまうことがよくある。視覚を握ったものが意識を握る。CDに付いてる歌詞カードっていうのは視覚をその音楽の外に渡さないためのものでもあるんだな。

歌詞カードでもまだ視覚を釘付けにしてしまうには弱い。一曲分の時間を持たせるには一曲分の歌詞の情報量じゃ足りなさ過ぎる。それを補った存在がPVでありカラオケの画面でありメディアプレイヤーのぐにゃぐにゃした画面でありコンポのびょんびょん動く棒グラフなんだろう。動くものは視覚の占有力が高い。

そうやってなんとかちゃんと聴いてもらい、うまく気に入ってもらえた曲は以後「ながら娯楽」でもいいパフォーマンスを出す。結局ながら娯楽として使うから、と思って初めから片手間にしか聴いていないとあまり満足できない。

何度か聴いていたJamiroquaiのベスト盤の特典DVDを今日初めて見たら、自分の中でCDの方の価値がぐっと上がったような気がしたので。

HIGH TIMES : SINGLES 1992-2006(初回生産限定盤)(DVD付)

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