「おろかもの」の正義論」を読んだ。作者かっこいいな。「すべての人とよりよく生きるために」っていう高い理想のためにじっくり1から社会の規範を作ろうとしている。その作業の中で、私が特定の考え方にとらわれていて思いもつかなかったような考え方を鮮やかに提示してくれたり、私ができれば考えたくなかったような部分にもその理想のために踏み込んで書いて見せている。

死刑を維持するかどうかは、「われわれが凶悪犯罪者を殺したいかどうか」の問題なのである。
わたしは、そしてたぶん、われわれの多くは、殺したくなってしまうのだ。

とか、

いま、世界中で死んでいく子どもの数は一日に三万人を超えており、その死亡原因のトップは下痢性の脱水症状である。その治療に必要な経口保水塩の費用は、一パック10円強にすぎない。
…中略…
われわれは、子どもたちの命が救えないのではない。救わないのだ。

とか。

こういう側面から目をそむけず、その上でよりよく生きていく道を探る筆者の態度は強く優しい。また、一歩間違えればただの世を儚む独り言に堕するこんな話を、社会のシステムをハックするという社会変革への糸口を持つことで前向きな議論にしているのが心強い。筆者のWebサイトも見たけど、誠実そうで「考える人」の魅力にあふれた人だな。