悪人正機 (新潮文庫)

吉本隆明糸井重里の共著。といっても対談本ではなく、「生きる」ってなんだ?「教育」ってなんだ?などと糸井重里が出すお題に対し、吉本隆明が語るというスタイル。糸井重里っていう名前と悪人正機っていうタイトルに惹かれてこの本を手に取った私としては期待と違った内容だったが、これはこれで楽しめた。

文章の量こそ少ないが、この本における糸井重里の役割は大きい。各章の最初には糸井重里がその章の吉本隆明の話を聞いた感想があるのだが、そのほめ具合がこれから始まる話をしっかり理解しようというモチベーションをあげてくれる。一見割高に感じられるTシャツや手帳も欲しがらせてしまうほぼ日での力をここでもしっかり発揮し、吉本隆明の知性や経験を欲しがらせてしまうのだ。先生の知識や経験を欲しがっている心理状態っていうのは、教育を受ける時には最適な状態だと思われる。糸井重里が究極的には学校のようなものをやりたがってると書いてあったが、この「欲しがらせる言葉の力」を使って学校の頭の部分もけっこううまくやっていくんじゃないか。

肝心の吉本先生の話。
こんなふうに自分の経験から考えたことを「だいたい、こうなってんじゃねえか」という態度で話せる年寄りがいるということはありがたいことだ。「ほとんどの人間は友達ゼロだし、それでいいんだよ」なんて、年寄りに言われたんでなきゃなかなか自分の中に取り込みにくい言葉だと思う。