父には息子である私への愛情を示す武勇伝が2つある。ひとつは私が4歳のころ足を骨折したときに最初に連れて行った病院で、私への扱いが手荒かった医者を怒鳴りつけて、すぐに私を抱えて別の医者に連れて行ったというもの。もうひとつは貧乏な生活の中で母は私を身ごもり、その生活を悲観した母の実家の家族が母親に中絶を勧めに来たときに、激怒して母の家族を追い返し、私を生ませたというもの。

どちらも、私のために父が激怒した話である。それを父は武勇伝として語る。その激怒によって利益を得たであろう私がこんなこと言うべきではないのかもしれないが、私はこれらの話が好きではない。そのときの父の意見が気に入らないわけでは決してない。それを怒鳴りつけることで通そうとする行為が好きになれない、はっきり言えば嫌悪感を抱いてしまう。

行為そのものよりも、満足げにそれについて話す様子が嫌なのかもな。「大義ある暴力」をふるうチャンスをのぞんでしまう嫌な人間心理を見せつけられてしまうから。