夕凪の街 桜の国

戦争の話というのはなにか、実際に戦火をくぐりぬけた当事者でなければ口を挟む資格がないとでもいうような特別な話題であるように思う。で、その特別な場所で、新しく生まれてきた人たちの手にとってもらえずにそのまま風化していってるような感じがある。この映画は、その特別な場所から戦争という話題を手の届くところに移し変えるような意義を持ってるように思う。

被爆者を苦しめてきたのは身体的苦痛だけでなく、歴史的に他に例を見ない状況が生む特殊な苦痛だけではない。「うちは死ねばいいと思われた人間」であるということに傷ついて「生きとってくれて、ありがとう」という言葉に救われるというような、個人間の愛情や承認の問題でもある。そういう描かれ方がされてあって、その視点が戦争というものを特別な場所から手の届く、なんとか語りうる場所に持ってきたんだと思う。

翠の「ねえちゃん、長生きしいや」と、皆実の「原爆を落とした人は私を見て『やったぁ、また一人殺せた』ってちゃんと思うてくれとる?」というセリフが印象に残った。これらのセリフ、違った感情から出てるものだけど、どっちも「私の命を、生きていくってことを、バカにすんな。」って言ってるように思える。生きていけるんならちゃんと生きろ、幸せになれって。