ヒューマン2.0
シリコンバレーの空気というかノリのようなものが伝わってきて楽しく読めた。目まぐるしい変化とスキルアップへの圧力を肯定さえできたらけっこう楽しそうだな、シリコンバレー。仕事も同僚も求められるスキルもどんどん変わるものであって、ひとつのあり方に執着しないっていうのは諸行無常の仏教的世界観のようでもある。じゃあその中でどう幸せに生きていくかっていう方法論にはどんな共通点があってどう違うんだろうか。
いい仕事ができてる感じと自分が進歩してる感じこそが幸福というものである、というのがシリコンバレー的な価値観だと思うが、これは「社会の役に立つことをやって、その充実感で満足して生きてゆけ」という上座部仏教の考え方にも近い。
「ヒューマン2.0は人生の自由を最大化し、ハッピーになろうとする。人生の自由とは、「仕事をしている時間の自由」+「仕事をしていない時間の自由」。
しかしこの本では仕事さえしていれば幸せという人を限られた一部の人として書いてある。作者はブログ名に「On Off and Beyond」ってつけるぐらいだから、とりわけOnの幸福論だけでは幸せになれないってことに特に自覚的な人なのだろう。この本の中ではギーク達のOff時の愛すべき(?)姿や自然に囲まれた土地としてのシリコンバレーがいろいろ楽しそうにレポートされている。
そうはいってもOffの時のためにもOnの時はできるだけ時間単価が高い仕事をしましょう、そのために絶え間ないスキルアップをしましょう、ってことになってあくまで社会に必要とされる技術を身に付けてそれを役立てることが幸福へのパスポートであるという部分は動かせない。プライベートの充実は競争の中で走り続ける辛さへのフォローとでもいうべき種類のものだろう。
それと対比するなら、上座部仏教の「キリのない欲望は捨てて現状を受け入れよ」っていうのは競争の中で思うように成果を出し続けられない辛さに対するフォローだろう。いい感じに競合しないで補完しあっている。
シリコンバレーのようなライフスタイルはきっと日本にも波及してくると思う。その、いわば未来の自分たちの姿でもありうるシリコンバレー人たちがいろいろ大変であるにもかかわらずおおむね楽しそうにやってるっていうのはなんとも心強いことだ。楽観的な未来予測よりも、楽しそうな未来人の日記の方が具体的で元気付けられるわ。
ヒューマン2.0―web新時代の働き方(かもしれない) (朝日新書)
- 作者: 渡辺千賀
- 出版社/メーカー: 朝日新聞社
- 発売日: 2006/12/08
- メディア: 新書
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