新釈 走れメロス 他四篇

すごくおもしろかった。この作者の本は全部読もう。

本家の文学作品は山月記走れメロスしか読んだことがなかったんだけど、それ以外の3編もすごく楽しめた。でも本家を読んだことのある2編の方がより趣向が分かって楽しめたのは確か。他のも本家と読み比べてみたい。

作者の本家作品に対する感じ方が物語を通して伝わってくるのもおもしろい。作者は走れメロスを読みながら「ノリノリだな、太宰治」とかちょっと引いて考えてたんだろうなとか想像すると、もりもり親しみが湧いてきてまるでもう友達のような気分だ。

山月記の李徴に対する新しい視点を提示してもらえたのも個人的によかった。李徴を自分に似ていると感じた初読の時からずっと、李徴は同属嫌悪の対象であって克服すべき人間の姿だった。忘れられない存在ではあるけど、それは憎んでるからだと思っていた。でもこの森見さんの山月記を読んで気がついた。俺、本当は李徴が好きだったのかもしれない。確かにろくでもない奴だったかもしれないけど、極端で傲慢で饒舌な李徴って魅力的じゃないか。斉藤秀太郎という姿に李徴を写し取ってもらうことでそのことに気付けた。憎むべきものが愛すべきものに変わったって素敵なことだ。もっとも、李徴の醜悪さの根本でありもっとも同族嫌悪を抱いたポイントである怠惰さはこの物語の斉藤秀太郎には感じられないが。


新釈 走れメロス 他四篇

新釈 走れメロス 他四篇