四畳半神話大系

私は森見さんの小説に出てくる自信過剰で理屈っぽくて臆病な男子大学生が好きだ。好きすぎるので彼らの行動をたやすくまるごと肯定してしまい、結果的に小説のテーマをつかみ損ねてしまっているような気がしないでもなかった。でもこの小説に出てくる奴らはそんな自分から見てもロクでもなさが目立つ。そう感じるようにうまいことできている。そのせいでキャラ萌え回路が暴走せずにすみ、森見さんの小説で初めてキャラクターや文体や理屈でなくテーマを一番中心的なものとしてずしりと感じとれたように思う。

テーマっていうか、ただの凡庸な教訓的感想なんだけど。いかに知識豊富で言葉巧みで才能があったとしても、ありえたかもしれない別の可能性の中に本来の自分を見出しているようでは幸せになれんなというようなことだ。流れついたこの自分自身の現実を嫌悪しすぎては、目の前のものの価値を十分に味わえない。現実への嫌悪を向上心や純粋さと取り違えたり、アイデンティティの源としてはいかん。

あと、自己の精神の向上を人生の目的に据え、外の社会とはできる限り交渉を避けて生きるというアプローチの虚しさというのもかなりのリアリティをもって感じられた。自分だけの世界で生きるなら何のための向上か。四畳半世界で勉強に身が入らない感じとか、よくわかる。これはちょっとばかり拡張して考えても同じことが言えるんではないか。まったく一人ぼっちではないにせよ、既に勝手知ったる生活の枠組みの中で生きていくことを志向すればそれは拡張四畳半として働き、向上への意欲、生活への意欲を中から腐らせる、と。やっぱり、どっか未知な領域へ打って出るという姿勢を持ち、今の生活への執着を棄てないと張りある生活は築けないということか。

四畳半神話大系

四畳半神話大系