変身/掟の前で 他2編

変身

これ、要介護の老人や後天的障害者とその家族の話のように感じるな。虫となってからの主人公が、「どうしてこうなったのか」「どうすれば元に戻れるのか」といったことにはあまり思い悩んでいないことがまず1つ。その代わりに、体の痛みやままならなさといったフィジカルな苦しみとの格闘や、かつては自分こそが支えていたが、今は一方的に頼るほかない家族に対して、自分はどのように思われているのかといったことが主人公の関心の中心にあるあたりとか。

家族の「グレーゴルは今まで私達を支えてきてくれた大切な人だから」という道理の部分が徐々に嫌悪感や生活の疲れといったものに崩されていき、疎んじられていく過程が怖い。自分は消えなくてはならないという絶望、そして実際に消えた後での家族の希望にあふれる感じといい、これが「世界と自分との戦いでは世界に味方しろ」ってことなんだろうか。

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自由なんて馬鹿げてる。必要なのは出口だよ。というようなサルの話が興味深い。希望と呼べるほどゴールが明確だったりキラキラしてなくてもいい、大事なのは毎日の方向性が決まることだ、というだろうか。

変身,掟の前で 他2編 (光文社古典新訳文庫 Aカ 1-1)

変身,掟の前で 他2編 (光文社古典新訳文庫 Aカ 1-1)